地域力研究所 会員募集中!

令和2年6月雑感

令和2年6月雑感

 船橋の老舗「割烹旅館玉川」が4月末に廃業となりました。創業100年を目前にした老舗旅館の閉鎖は、新聞やテレビ等でも報道され多くの反響を呼んでいます。

 すでに所有者が廃業と建物の解体を決定した後に地元自治体への連絡があったようで、現在の建物を保存するのは難しかったようです。市の方でも何とかできないか検討を重ねたようですが、国の登録文化財とは言えあくまでも個人の所有ですので、できる事が限られとのこと。そんな中でも、専門家への調査・記録を依頼し、ドローンやVR技術を持つ撮影機材などを駆使し、教育委員会では記録保存を進めておりました。

 こうした技術が活用できる時代にある事にはたいへん喜ばしいですが、これからも失われるであろう建物や文化財には強い懸念を覚えます。国や自治体が全てを守ることは難しいでしょうから、地域社会においてこうした文化を残す取り組みや団体の必要性を感じます。

 東山魁夷は「古い家のない町は想い出の無い人間と同じである」という言葉を残しています。玉川旅館や古い家だけでなく、全国でお寺や神社など様々な建物が日々失われています。戦後の高度成長の過程では、人口の増加とともに、町を広げ、建物を増やし、多くの価値を生み出してきました。
 その価値と想い出を使い捨て、人口が減ってもなお、街を広げ、建物を増やしています。旅行に行けば、古いものや、そこにしかないもの、歴史や自然を皆さん求めますが、自分の住むまちでは、同じものを失っても仕方がないとすぐに忘れてしまいます。

 さてこの報道を受けて現地には見学や写真撮影をする方が連日いらしていました。中には今回の件で知るまで、旅館の存在を知らなかったという市民の方もいらっしゃいます。宴会などで多用する方々にとっては有名でも、地元に住んでいればそもそも宿泊利用をする機会もないでしょうし、地域の団体などに関わっていなければあまり宴会などでも使わないかもしれません。
 いわゆるベッドタウンであるからこそ、地域の事を住民に知ってもらうのは、よほど気を付けないと難しいのかもしれません。

 船橋市では、昨年35,482名が転入し、31,381名が転出をしています。習志野市では平成29年に10,241名が転入、9,686名が転出しています。これだけの人数が毎年入れ替わっていると考えると、東京の衛星都市としての利点を活かすのであれば、黙っていても転入があるわけですから、たまたま引っ越してきた人がここにずっといたいと思える街を目指せば、人口減少の波に飲まれても生き残る事ができるかもしれません。

 ずっと住みたいと思える事を、街を好きになると捉えれば、好きへの第一歩は知る事ではないでしょうか?そもそも知らないものを好きにはなれないでしょうし。とすると、日々入れ替わりの多い街にとって、その街を知ってもらう活動というのはとても重要ではないかと思います。

 船橋なら「MyFuna」や習志野なら「KIRACO」などのタウン誌や、船橋市観光協会が毎年作成しているポケットガイドなど、地域を知る事ができるローカルメディアを大切にしたいと思います。

令和2年6月吉日

一般社団法人地域力研究所
代表理事 岡直樹


この文章は、6月1日付で地域力研究所の会員向けに送付した郵送物に同封の書簡に加筆訂正したものです。

地域力研究所 会員募集中

地域力研究所は様々な団体と連携を図りながら、地域資源を再構築することで地域に新たな価値を創造していきます。  新しい時代に向けた価値観を、共に考え、共に語り、実践しながら、社会に共有していく。そんな仲間を募集しています!

雑感カテゴリの最新記事