約2年前に創刊した「季刊 情報ステーション」に書いた自分のコラムを久しぶりに読み返してみた。当時はまだNPOの代表であったが、当時と想いは同じくするも、現在あまりの成長のなさに不甲斐なさを感じるが、改めて掲載したい。
たとえば、ショッピングモールや駅ビルなど新たな建物ができると街の様子が大きく変わり発展したように感じるかもしれません。しかし、そうして土地の面
影が無くなった町はその先に何を目指すのでしょうか?新たな施設も数年経てば目新しさはなくなり、30年もすれば老朽化が進みます。数十年後にまた解体し新たに建て、街の様子は様変わり。建物も街も使い捨ての様なものです。
数年前、あるドイツ人の方に教えてもらった言葉があります。
「古い家のない町は 想い出の無い人間と 同じである」
東山魁夷の言葉です。
10年前、情報ステーションでは「まちづくり」という言葉を、住民が主体となり、地域資源を活かして、文化と経済の持続的発展を目指すという想いで「そこに住まう人々が街への誇りと愛着を持ち、風土や歴史を元に、文化の創造と経済の自立を目指し続けること」と定義しました。
そこで暮らす人々の生活の延長線上に新たな交流が生まれ、土地の記憶を壊すのではなく活かしながら、ゆっくりと育んでいけるまちづくりが必要ではないでしょうか。
情報ステーションの民間図書館には、商店街の空き店舗を活用したものがいくつかあります。千葉市中央区の「ちばぎんざ図書館」では、高層マンションが増える商業エリアでの新旧住民の交流拠点、習志野市の「袖ヶ浦団地まいぷれ図書館」では、老朽化が進む公団住宅での高齢者と子供たちの交流空間となっています。
また空き家を活用した事例では、さいたま市で運営をしていた「東浦和駅前みんなの図書館」はマンションの一室をリフォームし学童施設と併設した図書館として、佐倉市の「佐倉 森の図書館」は2世帯住宅のひと世帯分を図書館として地域に開放しています。
その土地、その街にすでにある物を活かしながら、知恵を集めながら、新たな血を入れ、新しい価値を創造していくことで、たくさんの想い出が詰まった魅力ある街づくりができるのではないでしょうか。
情報ステーションの民間図書館も空き店舗や空き家など、その街にすでにある建物を活かしながら地域の交流空間を増やしていきたいと思います。
2018年 夏
全国で、古い家だけでなく、お寺や神社など様々な建物が日々失われてゆく。
人口の増加とともに、町を広げ、建物を増やし、多くの価値を生み出してきた。
その価値と思い出を捨て、人口が減ってもなお、街を広げ、建物を増やそうとしている。
旅行に行けば、古いものや、そこにしかないもの、歴史や自然を求める人々が、
自分の住むまちでは、同じものを失っても仕方がないと忘れてゆく。
地域力研究所 代表 岡直樹